杜(MORI)のティールーム

杜の都、仙台に事務所を構える杜協同法律事務所のスタッフたちが綴るリレーエッセイ

ポチ (y)

 犬を飼っていたことがある。もうずいぶん前のことだけれど。名前はポチ。私達家族はその雑種犬をとても可愛がっていた。私が大学に入って家を離れ、初めて帰省した時にポチが真っ先に出迎えてくれたのだが、その時のポチの目を今でも忘れられない。驚いたようなまん丸の目は「どこにいってたの?」「いままでいったい何してたの?」と言っていた。犬はしゃべらないけど、全身で言葉を伝えてくれる。ふにゃふにゃになったり、走り回ったりして喜んでくれた。帰省中は、散歩は私としか行かなかった。
 ポチはシャカシャカというビニールの音によだれをたらし(お菓子と勘違い)、散歩中何かに気を取られて側溝に落ちたりした(ホントに犬?)。でも、そんな間抜けな性格とは反対に、風貌は凛々しくて、散歩の途中、「いい犬ですね」とか「なんという種類ですか」とかよくたずねられた。そのポチが突然死んでしまった。ぼろぼろ涙をこぼしながら新幹線とバスを乗り継いでやっと帰った私を、目を真っ赤にした弟が玄関で迎えてくれた。この子の泣き顔を見るのはずいぶん久しぶりだなあと思った。ポチはいつもいた場所に横たわっていて、その眠ったような顔を父が画用紙に描いた。できあがった鉛筆画は、どの写真よりもポチらしくて、ほんのりと温もりが残っているようだった。その絵は今でも実家の戸棚の一角に置かれ、毎日炊きたてのご飯とお水と花が供えられている。