夏と指輪 (陽だまりねこ)
小学生のある夏休み、快晴だった日のこと。母のアクセサリーケースから紅い石がきらきら光る指輪をこっそり拝借し、友だちと家の近くの川へ遊びに出かけました。
サンダルのまま浅い川へ入って水をかけあったり追いかけっこをしているうち、ぶかぶかの指輪は子どもの指からするっと抜け、あっと思う間もなく川の中へぽちゃんと落ちてしまいました。
母のお気に入りの指輪です。大あわてで水中を覗き、石を除けて探しましたが、とうとう見つからないまま夕暮れになってしまいました。
指輪を失くしたことを何度も母に言おうとしましたが、結局は言えずじまい。大きくなったらお母さんに代わりの指輪をプレゼントして許してもらおう、そう思いながら内緒にしてきた出来事です。
夏の夕陽を反射してきらきら光る川面を見ると、今でもあの夕暮れの川を思い出して悲しくなります。「ごめんねお母さん」のひとことは、いまだに言えずにいます。
今の母なら、指輪よりも旅行をプレゼントしたほうが喜ぶだろうと思いますが、それでもいつかひとつ、紅い石の指輪をプレゼントしたいと思うのです。